目的:最近の疫学的調査から口腔内感染とくに歯周病と心臓血管疾患や頸動脈疾患の関連性が報告されており、歯周病と血管疾患との関連性について動脈検体と口腔内検体をPCR法にて系統的に検討した。 対象と方法:対象は、腹部大動脈瘤(A群)50例、閉塞性動脈硬化症(S群)55例である。歯周病の重症度を歯周ポケットの深さで4段階に分類し、PCR法にて口腔内検体、動脈瘤壁の歯周病菌DNAを検索した。肉眼的にほぼ正常な末梢吻合部10例をコントロール検体とし、PCR法にて歯周病菌DNAを検索した。 結果:歯周病の重症度は、A群:健常2例、軽症14例、重症28例、無歯牙6例、S群:健常2例、軽症19例、重症26例、無歯牙8例に認められた。PCR法による歯周病菌DNAの陽性率は、A群:唾液中86%(43/50)、動脈瘤壁82%(41/50)、S群:94%(50/53)、動脈瘤壁90%(9/10)、軽度の動脈硬化病変部(吻合部)48%(21/43)であった。コントロール(n=10)検体では歯周病菌DNAをまったく検出できなかった。 考察:対象例の歯周病罹患率はわが国の平均(82.5%)より高く、かつ重症化していた。動脈瘤病変の82%、閉塞性病変の90%に歯周病菌DNAが一種類以上認められ、軽度の動脈硬化性病変では48%であり、さらには歯周病菌がコントロールでは認められなかったことから、動脈硬化性病変の初期段階から影響する可能性が示唆された。 結語:対象患者のほとんどが歯周病を有し、かつ重症であった。PCR法による検討にて歯周病原因菌のDNAが動脈病変から高頻度に認められ、軽度の動脈硬化性病変では検出頻度が低く、さらにコントロール検体からは検出できなかった。歯周病がAAAやASOなどの動脈疾患の進展に、なんらかの形で関与していることが示唆された。
|