研究概要 |
外科手術の周術期管理において問題となる下腿深部静脈血栓症(DVT)からの肺塞栓症(PE)をDoppler ultrasoundを使用して実際に下腿からの塞栓子が肺塞栓症を引き起こしていることを診断する方法の確立と臨床応用の可能性を検討した。 Doppler ultrasoundとして塞栓子検出ドプラ装置(TCD,Companion3,Nicolet Biomedical社製)を使用し、去勢ブタを用いて全身麻酔下にTCD 2MHzプロブで肝部下大静脈(径10-14mm)にてHigh intensity transcient signal(HITS)の有無を検索した。まず全身ヘパリン化後に右腸骨静脈より血栓(長さ10mm、径5mm)を注入し、終了後に肺を摘出し病理学的に肺塞栓症を確認した。次に種々の大きさの血栓を注入して定量化の評価を行った。動物実験では5×10mmの塞栓子を25個中22個HITSとして検出可能であった。肺の病理組織像では色素を混入した血栓が肺動脈内に確認できた。器械の信頼区間はオフライン分析の結果より信頼度60%に設定すると感度と特異度が最良であった。臨床におけるDVT患者を対象として安静時と足関節運動時のHITSの有無を評価したところ、DVT症例8例10肢のうち5例5肢で30分間に2〜6個のHITSを検出し、肺血流シンチでPEを認めた。30分間で1個のみ検出した1例では肺血流シンチにてPEを認めなかった。HITSを検出しなかった3例ではPEを認めなかった。1例で下大静脈フィルター留置前後にて検査を施行したが、留置前にHITSが2個検出されたが留置後には検出されなかった。静脈系で血栓を塞栓子として検出でき、器械の信頼度を60%に設定することが感度-特異度が最良であった。DVT急性期に塞栓子が検出された症例で肺血流シンチにてPEの所見を認めたことより、PE発生の危険予測や下大静脈フィルター適応や効果判定の客観的指標として超音波ドプラによる静脈内塞栓子検出法は有用であると考えられた。
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