正常組織と悪性病変の電気的な相違があるか否かを確認するため、手術摘出臓器の電気的な評価を試みた。具体的には正常な胃粘膜と悪性病変部分の誘電特性を評価し、β分散領域のtanδの最大値"tanδm"を算出し検討した。その結果、高分化型腺癌患者の正常胃粘膜と癌病変部の"tanδm"に有意差を認めなかったが、低分化型腺癌では正常胃粘膜部の"tanδm"3.35±0.21で、深達度m〜mpの癌病変部は4.66±0.79、深達度ss〜se部分は7.60±1.23であり、統計学的有意差を認めた。組織学的に組織構造変化は著しい低分化なものや進行した癌において"tanδm"が高値になることが確認された。 一方、鉄コロイドを用いてリンパ節への集積を電気的に検出する試みは、コロイド径、含有量、投与量、投与時間、測定時間をかえて試みたが、正常リンパ節と鉄を含有したリンパ節の電気的相違は確認できなかった。その理由としては、磁性体の拡散効果、電極とリンパ節の接触による誤差、鉄の集積が微量であるので検出困難である、などが考えられた。また、接触型多点計測用の電極と現有のインピーダンスアナライザー(HP4194A)を用い、実験用動物の胃、大腸で、lkHz〜1MHzのmulti frequency rangeで誘電特性の測定をおこなったが、データの再現性が乏しく、動物の個体差を反映しているものと考えられた。得られたデータを等電位逆投影法で誘電特性の導電率分布図を作成したが、空間分解能が十分でなく、得られた画像からリンパ節の画像描出は得られなかった。また、実際に術中インピーダンスCTでセンチネルリンパ節の描出を予定していたが、動物実験でインピーダンスCTの有効性が示されなかったため、臨床における使用は実施できなかった。以上から、正常部分と癌組織の電気的な相違はあると結論できるものの、インピーダンスCTを用いたセンチネルリンパ節検出法の確立は、事実上困難といわざるえない事が判明した。
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