本研究では、大動脈瘤に対する新たな治療法として、Insulin-like growth factor-I(IGF-1)遺伝子を用いた遺伝子治療の可能性を検討している。大動脈瘤は、マトリックス分解酵素(matrix metalloprotainase (MMP))により血管壁弾性線維を形成するエラスチンなどの細胞外基質が破壊され、血管壁の変性および弾力性の消失を生じることで動脈瘤径が拡大する。エラスチンは、平滑筋細胞や線維芽細胞などにより産生されており、IGF-1は、エラスチン遺伝子の発現調節に関わると報告されている。そこで、動脈瘤瘤壁に対するIGF-1遺伝子の遺伝子導入を用いた血管壁エラスチン再生の可能性に着目した。これは、血管壁局所でIGF-1遺伝子を過剰発現させ、分解消失したエラスチンの再生を目指すものであり、動脈壁の弾性線維の再生および血管の弾性復元が可能になると考えられる。これにより、動脈瘤破裂の予防が可能になると考えられる。 本年度は、培養細胞およびラット腹部大動脈への遺伝子導入方法の追加検討を行った後、IGF-1遺伝子の導入を試みた。まず、培養細胞として血管平滑筋細胞を用い、Lipofection法にてGFP遺伝子を導入した。また、ラットを全身麻酔下に開腹し、腹部大動脈を露出し、カテーテル法により血管内腔よりLipofection法にてGFP遺伝子を導入した。血管平滑筋細胞および腹部大動脈ともに、GFP蛋白の発現を蛍光観察で確認したが、細胞レベルで、軽度の細胞障害性を認めた。現在、IGF-1遺伝子の導入を目指し、大腸菌を用いIGF-1遺伝子の増幅を行なっている段階である。 来年度は、実際にIGF-1遺伝を導入し、培養細胞および血管壁でのエラスチン産生の評価を行う予定である。
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