前年度に、アミノ酸によって活性化される蛋白合成に関与する細胞内シグナル経路であるmTOR経路を、ラット小腸上皮細胞であるIEC6 cellにおいて効果的に活性化するアミノ酸が、アスパラギンであることが示された。このmTOR経路のcell growth-related kinaseであるp70^<S6k>はアミノ酸により活性化されたが、他のcell growth-related kinaseであるAkt、cdk2、p90^<rsk>等への影響は明らかではなかった。これにより、アミノ酸によるシグナルがmTOR経路に特異的であることが推測される。その後の検討で、アスパラギンの培養液への溶解の限界は、10mM程度で10^2mMの投与は困難であることがわかった。また、アスパラギン投与によるこの経路の活性化は、約30分でピークとなり、プラトーに達してしまうため、無制限の活性化は起こらないと思われた。一方で、アスパラギンは不足したときに細胞に多大な細胞増殖抑制効果が認められた。さらに、グルタミンの不足により細胞増殖抑制に相乗効果が認められた。アスパラギンを分解するAsparaginaseによっても細胞増殖抑制が認められたが、培養の継続により増殖が回復する現象が認められ、Asparagine synthetaseの影響を検討中である。アスパラギンは、グルタミン同様現行のアミノ酸輸液製剤に含まれない。これまで外傷や術後の侵襲時に、特に腸管の蛋白合成に関与してグルタミン投与の重要性が報告されてきたが、侵襲早期には蛋白合成に関与する細胞内シグナル活性化の点より、アスパラギン不足を補う必要性もあると考えられた。
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