肝は再生可能という意味で特異な臓器である。また門脈塞栓術(PVE)は塞栓葉の萎縮と非塞栓葉の肥大を同一の個体で同時に誘導すると言う意味で特異な状況を作り出している。本研究では、PVE後のそれぞれ肝葉における肝増殖因子と、肝抑制因子の発現と、肝葉における肝細胞増殖、apoptosisの誘導、肝容積の増減とのかかわりを検討した。 対象症例は術前にPVEを施行された10症例。症例の同意の上に、PVE2-3週後の肝切除術時にそれぞれの肝葉から肝生検標本を採取した。肝細胞の増殖とapoptosisをそれぞれKi-67とTUNEL法を用いた免疫組織染色により検討した。また肝増殖因子と抑制因子の一つの指標として、TGF-αとTGF-βの発現を免疫組織染色で検討した。 PVEは塞栓葉にapoptosisを、肝細胞増殖を非塞栓葉に誘導した。さらにCTで計測した肝容積は今までに報告されてきた様に塞栓葉で容積増大を、非塞栓葉で肝葉委縮を誘導していた。TGF-αは非塞栓葉において著明に発現が増殖し、一方塞栓葉では中等度ではあるが、コントロールとして用いた正常肝と比較してやはり発現が増強していた。これと対照的にTGF-βの発現は塞栓葉で増強しており、非塞栓葉ではこれに比べると程度は低いが正常肝と比較すると優位な発現の増強を認めた。塞栓葉、非塞栓葉を含めた、それぞれの肝葉の容積の前後の容積の変化率はそれぞれの肝葉でのTGF-αとTGF-βの発現の程度の比率に有意に相関していた。 これらの結果より、PVE後の肝葉における肝細胞増殖とapoptosisには増殖因子であるTGF-αと抑制因子のTGF-βの双方が関わっており、これらの因子のそれぞれの肝葉におけるバランスにより、結果としての肝葉の委縮か増大のどちらが誘導されるかが決定されるようになると考えられる。
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