研究概要 |
膵癌は消化器癌のなかでも最も予後不良な癌の一つであり,根治的外科手術を目指して拡大手術を行い,さらに術後に補助化学療法として放射線療法や化学療法を積極的に行っても,肝転移,局所再発,リンパ節転移などにより術後5年生存率はせいぜい20%にすぎない.今回我々は,膵癌に対する新規遺伝子治療法を開発する目的で,以下の実験を行った. 1.ヒト膵癌培養細胞株であるAsPC-1にインターフェロンβ(IFNβ)発現ベクターを組み込んだリポソーム(IABP-1)を投与することで,時間の経過と共にAsPC-1にアポトーシスが誘導され,腫瘍増殖抑制効果が見られた.この時IABP-1の至適投与量を測定したところ,0.5μg/mlまでは濃度依存的に腫瘍増殖抑制効果が増強されたが,それ以上ではリポソーム自身による細胞毒性が認められた. 2.AsPC-1に対しIABP-1を一定時間作用させた後に培養上清を回収し,別のAsPC-1に投与したところ,やはり明らかな腫瘍増殖抑制効果を認めた.このことから,IABP-1投与により細胞内で産生されたIFNβによる直接的な抗腫瘍効果に加えて,細胞外に排出されたIFNβにより周囲のIFNβ遺伝子非導入細胞にも抗腫瘍効果を発揮することが示された. 以上より膵癌細胞に対してIABP-1は直接的,および間接的に抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった.現在ヌードマウスの肝臓内にAsPC-1を移植して肝転移モデルを作製し,IABP-1を局所投与することで,in vivoにおけるIABP-1の抗腫瘍効果につき検討を行っている.
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