脂肪肝の肝虚血・再灌流傷害では肝類洞の微小循環障害と脂質の変性が関連した肝細胞障害が起こることが予想され、脂肪肝の肝切除術では肝再生の遅延が指摘されている。このため、温阻血障害を受けた脂肪肝に肝切除を行うと、その後の肝再生は著しく障害され肝不全に陥る危険性が高くなることが想像される。この研究の目的は温阻血障害脂肪肝に対する肝切除量がどの程度であれば十分な機能的・形態学的肝再生が起こり、肝不全が回避できるか明らかにすることであり、今年度は60分肝虚血後に約30%肝切除を行う実験モデルを用いて検討した。 SD雄性ラットに脂肪肝を作成するため、特殊配合飼料(Fat-enriched chow)を4週間与えた。肝組織を採取し、組織学的にsteatoticな変化が30-60%にみられる中等度の脂肪肝が作成されたことを確認した。全肝虚血による腸管うっ血を回避するため、左正中葉と外側葉の肝流入血行を遮断し、全肝の約70%にあたる領域の肝虚血を60分間行った。虚血終了時に全肝の約30%にあたる肝右葉と尾状葉を切除した。7日間生存率に加えて、血漿AST・ALT値、肝組織像を検討した。肝虚血後7日間生存率は両者とも70%と変わりなかった。再灌流後の血漿ALT値の頂値は正常肝では6時間目にみられたのに対し、脂肪肝では12時間目(8793±1478IU/1)であった。組織学的には、12時間目の肝組織には類洞内にうっ血を伴うfocalなnecrosisが散在していた。このように、生存率では差がなかったものの、脂肪肝では正常肝に比し、30%肝切除でも肝虚血による組織傷害が遷延する可能性があると考えられた。
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