研究概要 |
研究の目的:胃癌では,術後の肝転移や肺転移など血行性転移が大きな問題である.胃切除後に血行性転移の高危険群が判定できれば,術後早期に選択的に補助化学療法を開始し,予後を改善させることも可能と期待される.本研究の目的は,胃癌症例で,血中に出現する癌細胞の臨床的意義を明らかすることである. 研究成果:現在まで以下の事柄が明らかになった. 1.CEA,CK19 CK20 mRNAの3つのマーカーのsensitivityを検討した.KATO-III細胞を健常人末梢血液1.5mlへ添加し,癌細胞の牽出をreal-time RT-PCR法にて検討した.CEA mRNAプローブではKATO-III細胞10個でも検出可能であり,CEA mRNAプローブがもっとも牽出感度が高かった. 2.healthy volunteer 10,非癌患者30名の末梢血1.5mlを採血し,real-time RT-PCRを用いて血中癌細胞を検出した.CEAはコントロールや非癌症例で陽性例を認めなかったのに対し,CKのマーカーでは,コントロールでも陽性例を認め,血中胃癌細胞の検出にはCEAが最も信頼の高いと考えられた. 3.胃癌患者末梢血中癌細胞の検出を試みた.2001年11月から2003年3月までに胃癌にて胃切除を施行した59例(Stage I:29,Stage II:9,Stage III:17,Stage IV:4)を対象とした.また,非癌症例15例(胆石:13,胃潰瘍:1,ITP:1)をコントロールとして登録した.術直前,直後に末梢血1.5mlを採血し,CEA mRNAをプローブとして血中癌細胞数を定量した.胃癌例では,術前にCEA陽性例はなく,術後は27/59(45.8%)にCEA mRNAが陽性であった.一方,非癌症例では,術前後でCEA陽性例を認めなかった.術後CEA陽性例は,癌の進行度,手術術式と関連なく,低分化型胃癌で手術時間が長いものに有意に多かった.また,胃癌20例で,術前,術直後,術後1日目,2日目で血中癌細胞を定量した.CEA陽性例は,術前(0/20),術直後(12/20),術後1日目(1/20),2日目(0/20)となり,術後2日以内に末梢血液より癌細胞は消失することが確認された.治癒切除55例のうち12例に再発を認めた.術後CEA陽性25例中再発は3例(12%),術後CEA陰性30例中再発は9例(30%)と,治癒切除後再発は術後CEA陰性例に多かった. 以上の結果より,以下のことが推察された.胃癌手術により,癌細胞が血中に播種される危険性があるが,末梢血液中に播種された癌細胞は,術後速やかに血液中から排除される.末梢血液中に癌細胞を認めた症例の予後はむしろ良好で,免疫学的な感作が作用している可能性が示唆された.即ち,臓器やリンパ節に残存している微少な癌細胞がこの免疫学的感作により排除される可能性が考えられた
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