研究の目的: 胃癌の胃切除後に血行性転移の高危険群が判定できれば、術後早期に選択的に補助化学療法を開始し、予後を改善させることも可能と期待される。本研究の目的は、胃癌症例で、血中に出現する癌細胞の臨床的意義を明らかすることである。 研究の成果: real-time RT-PCR法を用いて、手術前後の末梢血中癌細胞数を測定した。術前には全例、血中に癌細胞を認めた例はなかったが、術後には40%に血中に癌細胞を検出した。血中の癌細胞は術後2日以内に末梢血液より消失した。治癒切除後再発は、術後に癌細胞が血中に出現する例で有意に少なかった。以上より、胃癌手術により、癌細胞が血中に播種される危険性があるが、末梢血液中に播種された癌細胞は、術後速やかに血液中から排除される。末梢血液中に癌細胞を認めた症例の予後はむしろ良好で、免疫学的な感作が作用している可能性が示唆された。この結果を平成16年の外科学会総会で発表し、現在Surgery Today誌へ投稿中である。 進行スキルス胃癌の10例に対し、CDDPを用いた腹腔鏡下腹腔内化学療法(IP)を行った。 real-time RT-PCR法を用いて、IPの前後における腹腔内癌細胞数の変化と治療効果を比較した。IP療法では、CDDPを計3回腹腔内に投与した。CDDP投与前、IP治療終了後の翌日に腹腔洗浄液を採取、腹腔内癌細胞数を測定した。IP前の腹腔鏡下腹腔内洗浄中には全例に癌細胞をrea1-time RT-PCRで確認した。IP後に90%以上の減少率を示した例は6例で、平均生存月数は、90%以上の減少例で8.3ヶ月、90%以下の減少例で11.5ヶ月で、癌細胞数の減少率と予後とは関連を認めなかった。また、IP後IL-2 mRNAの発現レベルが上昇した症例の予後は若干延長した。腹腔内に癌細胞が多い症例では、IL-2 mRNA発現が抑制されており、IL-2を用いた腹腔内免疫化学療法の可能性も示唆された。
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