【緒言】プロテアーゼ活性化受容体(Protease-activated-receptors : PARs)は、生体内に広く分布し、特異的セリンプロテアーゼによって活性化されることで様々な生体機能調節を行っている。PAR familyのうちPAR-2は消化管に強く発現されていることが同定されたが、その機能についてはほとんど解析されていない。PAR-2受容体の活性化プロテアーゼとして、膵外分泌性トリプシン、消化管産生性トリプシン様酵素、あるいは、肥満細胞トリプターゼが示唆されている。これらのプロテアーゼの標的細胞として、消化管粘膜上皮あるいは消化管平滑筋細胞が想定される。 【材料と方法】消化管粘膜上皮におけるPAR-2受容体の発現に注目し、ヒト大腸腺癌細胞株DLD-1を用いて、その細胞増殖に対する効果と細胞内シグナルの解析を施行した。受容体刺激にはagonist peptide(AP)/agonist proteaseを使用した。 【結果】(1)DLD-1において、RT-PCR法によりPAR-1/PAR-2 mRNA発現が確認された。(2)共焦点レーザー顕微鏡を用いたFluo-3蛍光定量法により、PAR-1/PAR-2 AP添加によりcalcium signalが検出された。(3)PAR-1 AP/thrombinの添加では細胞増殖に有意な差を認めなかったが、PAR-2 AP/trypsinで細胞増殖は有意に促進された。(4)PAR-2APによる細胞増殖の増加は濃度依存的、かつ、接触時間依存的であった。(5)PAR-APの増殖促進効果は、MEK-1 inhibitor(PD98059)により消失した。(6)Western blottingによるMAP kinase cascadeの解析では、MEK1/2、p44/42 MAP kinase、SAPK/JNK、p38 MAP kinaseの発現が確認され、PAR-2刺激後のMEK1/2、p44/42 MAP kinaseの活性化(リン酸化)が確認された。 【結論】粘膜上皮由来のヒト大腸腺癌細胞株DLD-1において、PAR-1/PAR-2発現が確認され、また、PAR-2受容体刺激で細胞増殖が促進された。細胞増殖のシグナル伝達には、calcium signalを起点としたPKCの活性化、及びMAP kinaseの活性化が示唆された。
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