研究概要 |
P-selectin,PAR1およびPAR2 cDNAの発現vector(Tet-system)への組み込みは残念ながらいまだ成功していないが、これらの発現ベクター導入後の細胞をThrombinで刺激したとき、細胞反応としてどのようなものが想定されるかを調べておく必要がある。すなわちSUIT-2細胞およびそのsublineにおけるthrombin刺激後のP-selectinの発現以外にどのような細胞反応が惹起されているかを検討した。まずThrombin刺激による細胞増殖への影響について調べた。細胞増殖の測定はMTT assay法にて行い、無血清培地にthrombinを0.01,0.1,0.5,1,10U/ml添加し24,48,72,96時間後の細胞増殖を見た。するとS2-013、S2-007ではthrombin濃度1U/ml,10U/mlの刺激で時間の経過とともに有意に(p<0.01)増加した。FACScanによる細胞周期解析で、これらの細胞の刺激後24時間後のS期が約1.5倍に増加していたことから、DNA合成能の上昇が見られることがわかった。一方S2-028、S2-CP9ではいずれの濃度でも増殖に有意な変化は認めなかった。 ところで生体内のthrombin receptorにはPAR-1以外にもPAR-3,PAR-4,GPIbαがあるが、RT-PCRによる発現解析でSUIT-2とそのsublineにはPAR-3とGPIbαの発現が見られた。Thrombin receptorが3種類存在することはヒトの癌細胞株においてはこれまで報告がない。Thrombin刺激による細胞変化は細胞増殖だけでなく細胞外基質への接着や浸潤にかかわっていることが推測された。
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