トロンボモジュリン(Thrombomodulin:TM)/プロテインC系は、ヘパリン/アンチトロンビンIII系と並ぶ生体内の主要な抗凝固システムである。 脳死肝移植のドナー不足は深刻で、心臓死肝移植への適応拡大は重要な課題である。しかし、心臓死肝臓移植において温阻血障害は不可避であり、primary non functionの危険性が高い。これは、再灌流障害により移植片の類洞内皮細胞から抗凝固因子であるTMが喪失するために微小血栓が形成され、局所循環が障害されるためである。 組換えアデノウィルスを用いた遺伝子導入は、in vivo、静脈投与で肝臓特異的に高効率な遺伝子導入が可能である。そこで我々は、組換えアデノウィルスの静脈投与にて、ヒトTM遺伝子(hTM)をラット肝臓へ導入し、肝温阻血再灌流障害モデル(30分間の全肝阻血を行い、その後阻血を解除する)を用いて、TMの肝障害抑制効果について検討した。TM遺伝子導入群に対し、LacZ遺伝子導入群と非遺伝子導入群をコントロール群とした。再灌流6時間後、12時間後、24時間後、7日後に犠牲死させ、検体を採取した。 まず、hTM遺伝子の導入を、RT-PCRと免疫染色で確認した。 再灌流12時間後において、対象群と比較しTM遺伝子導入群で、AST、ALT、ヒアルロン酸の低下と組織血流量の増加を認めた。血清TM濃度に差はみられなかった。 病理像では、HE染色でコントロール群と比較し、TM群で肝障害が抑制され、好中球数の浸潤は、TM群で抑制された。 以上より、TM遺伝子を導入することで、再灌流12時間後において肝温阻血再灌流障害の抑制効果が認められた。
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