研究概要 |
核内レセプターファミリーのひとつperoxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)は,脂肪組織や癌細胞,免疫細胞などに発現し,脂質代謝や糖代謝,癌細胞の分化・増殖,免疫調節,炎症に関与することが示されている.PPARγリガンドであるthiazolidinedione誘導体pioglitazone(PGZ)(アクトス【○!R】)は,インスリン抵抗性改善によるII型糖尿病治療薬として安全に臨床応用されている.本研究では,このPPARγおよびそのリガンドPGZに着眼し,ヒト大腸癌に対するPGZの増殖抑制・転移抑制効果とその作用機作を明らかにすることを目的とした. PGZは,大腸癌細胞株HT-29,SW480に対してin vitroおよびin vivoでの増殖抑制効果のみでなくSCIDマウス肝転移モデルでの肝転移抑制効果を示した.さらにWestern blottingまたは免疫組織科学により,PGZはHT-29に対してin vitroではCOX-2,cyclin D1の発現抑制を,またin vivoではCOX-2,cyclin D1,VEGFの発現抑制を示すことが明らかとなった.このことから,PGZの大腸癌細胞に対する抗腫瘍効果はこれらの分子発現抑制を介している可能性が示唆された. 大腸癌肝転移に対する化学療法は,近年急速に進歩してきている.しかしながら,これらの治療には有害事象も少なからず伴う.本研究で用いたPGZは,SCIDマウスに対する毒性は認められず,大腸癌肝転移制御に安全に使用できる可能性がある.しかし,SCIDマウス肝転移モデルにおける肝転移抑制効果は約50%であり,これを臨床応用するためには,単独療法よりも既存の抗がん剤との併用療法の方が有用かつ実践的である可能性が考えられた.この点に関する解明が今後の課題である.
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