消化器外科領域におけるBacterial translocation(以下BT)は、腸内細菌が腸管壁や胆管、血管、リンパ管を通って他の部位に感染する場合(狭義)と、感染巣から他の部位への感染する場合(広義)があり、この度は多角的に研究した。腸内細菌の腹腔へのBT頻度の高いのはEnterobacteriaceaeとCandida spp.で、低いのはEnterococcus spp.であった。なお、壊死組織が存在すると緑膿菌のBT頻度が高くなった。また、緑膿菌はカテーテルから血液に高率にBTした。原発(感染)巣から血液に高率にBTされる菌種は、Escherichia coli、Serratia marcescens、Staphylococcus coagulase(-)であった。消化管から胆汁中に多くBTされた菌種はE.coliおよびKrebsiella pneumoniaeであった。S.marcescensは感染抵抗力の低下した患者において血液中にBTが生じやすかった。手術侵襲、抗癌剤投与、出血性ショック、術後膵炎、薬剤ショックは腸内細菌のBTを引き起こす要因となった。 BTに関しては、具体的な情報が少ない。したがって、本研究では臨床に即してデータを収集した。実際に、腸内細菌や感染巣の細菌が腹腔、血液、胆道・肝にBTすることが多く、BTすることによって全身感染へと進展している。また、抗菌薬の使用による消化管内細菌の変動も大きな問題となる。たとえば、緑膿菌が糞便から分離された症例(n=81)において85%69例にSSIからも分離された。したがって、糞便中に緑膿菌が分離された場合には、周術期感染のrisk factorとなった。
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