研究概要 |
【目的】ミトコンドリアへの脂肪酸の輸送を触媒する酵素であるcarnitine palmitoyltransferase-1(CPT-1)の遺伝子を制御しているのはperoxisome proliferator-activated receptor α(PPAR-α)である。PPAR-αは肝細胞における脂質代謝経路の多くの酵素を転写レベルでの調節を行っていることが知られているが、近年脂質代謝のみならず糖代謝、アミノ酸代謝を含めた極めて多岐にわたる代謝調節を司っていることが明らかになってきている。本研究においては、肝再生と肝細胞癌におけるエネルギー代謝の調節機構を解明するとともにその相違を明らかにする。 【方法】肝臓手術患者を対象に肝癌の切除標本から癌部と非癌部の肝組織を採取した。得られた肝組織の病理学的診断は癌部が肝細胞癌(n=10)、非癌部が肝硬変(n=11)であった。肝組織に含まれるCyclin D1,PPAR-α,CPT1,GAPDHのmRNAをRT-PCR法を用いて定量した。また、ラットに70%肝切除を行い、肝切除1日後(n=4)と3日後(n=6)に肝臓を採取した。対照群は開腹術のみ行い1日後(n=4)と3日後(n=5)に肝組織を採取した。得られた肝組織に含まれるCyclin D1,PPAR-α,CPT1,GAPDHのmRNAをRT-PCR法を用いて定量した。 【結果】ヒト肝細胞癌組織でのGAPDHとPPAR-α、CPT-1、Cyclin D1のmRNAの発現量は、非癌部硬変肝組織での発現量に較べて有意に(p<0.01)増大していた。肝切除術1日後のラット残肝組織におけるGAPDHとCyclin D1のmRNAの発現量は、単開腹術1日後のラット肝組織での発現量に較べ有意に(p<0.05)増大していた。肝切除術3日後のラット残肝組織におけるGAPDHとCyclin D1のmRNAの発現量は、単開腹術3日後のラット肝組織での発現量に較べ有意に(p<0.01)増大していた。肝切除後のラット残肝組織におけるPPAR-αとCPT-1のmRNAの発現量は、単開腹術後のラット肝組織での発現量と比較して有意な差を認めなかった。 【結論】ヒト肝細胞癌組織においては解糖系が亢進していること、ミトコンドリア内における糖の利用は抑制されていること、ミトコンドリア内での脂肪酸の代謝は亢進していることが推察される。一方、ラット再生肝においては解糖系が亢進しミトコンドリア内における糖の利用が亢進していることが推察される。
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