研究概要 |
本研究の目的は、幽門保存胃切除術(PPG)を行う際、(1)幽門輪からの至適切離距離はあるのか?(2)幽門部の運動に迷走神経(幽門枝)が必要か?についての基礎的研究を行い、その結果を下に早期胃癌に対する合理的な機能温存術式を確立することである。 最初に、^<13>C呼気試験法胃排出能検査が健常なビーグル犬で使用可能か否かについて検討した。試験食として液体(ラコール200ml+^<13>C-Acetate 50mg)と固体(ドッグフード200kcal+卵黄に^<13>C-Octanoic acid50mgを混入したスクランブルエッグ)を使用した。両試験食とも再現性があり使用可能であると判断された。しかしPPG実験群(A群:幽門輪から1.5cm口側で切離、B群:2.5cm口側で切離、C群:3.5cm口側で切離)では試験食の摂取状況,測定値にバラツキが大きく、術後1、3ヶ月とも再現性が得られず、各群間での比較は困難と判断された。このため実験群での結果は得られていない。臨床研究では、70歳未満の早期胃癌で、迷走神経温存PPGを施行し、術後1年目にRI胃排出試験を受けた53例を対象とした。RI胃排出試験は試験食として99mTc-DTPA添加粥食(200g)を用い、摂取直後(0)、5、10、20、30、40、50、60分後に立位にて測定した。胃排出パターンと術後愁訴、摂食量、体重変化、QOL(Gastrointestinal Quality of Life Index)との関係について検討した。約1/3の症例は術後1年目でも胃排出が遅延していた。胃排出遅延群は愁訴が多く、食事摂取量も不良であった。幽門輪からの切離距離は重要な要因と考えられたが、2.5cmで切離した群にも胃排出が遅延する症例が25%にみられた。このため排出遅延をきたす更なる原因の解明が必要であり、今後は術前のRI胃排出試験や胃電図を参考にして、術後の排出遅延との相関について検討したい。RI胃排出試験は幽門機能の客観的評価やQOLを予測するのに有用であると考えられた。
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