研究概要 |
弓部大動脈全置換術の際に用いられる脳保護法のうち順行性選択的脳灌流法(ASCP)は脳エネルギー代謝等の面から他の脳保護法より優れているが、我々の弓部全置換術220例の多変量解析による検討において、脳梗塞の既往が術後脳機能障害のindependent predictorであることを報告した(Ann Thorac Surg 2000;70:3-8)。 これまで我々は、脳梗塞を有する脳に対するASCPの影響について脳梗塞犬モデルを用いて検討し、人工心肺を用いた超低体温下(直腸温20℃)ASCPを120分間行うと、脳梗塞を有する群において復温中の嫌気性代謝が亢進しASCP中の脳虚血の可能性があることを示した。さらに同モデルにおけるPH managementの差による脳保護効果の検討では、ASCP中からのmalodiadehyde, glutaminateの上昇、ASCP後のsomatosensory evoked potential(SEP)におけるcentral couduction timeの延長とamplitudeの低下をいずれも脳梗塞モデルalpha-atat群に認め、脳梗塞を有するhigh risk群におけるPH-atat managementの脳保護効果を示した。 今回我々は、ASCPによる中枢神経細胞内でのfree radicalの発生が術後脳機能障害に多大な影響を与えると考え、予防的なfree radical scavenger(edaravon)投与の脳保護効果を検証した。同脳梗塞犬モデルにおいてASCP直前にedaravonを投与することにより、非投与群と比較したASCP中からの血中8-OHdGの減少と、ASCP後のSEPにおけるcentral couduction timeの延長とamplitudeの低下を認めた。これは、脳梗塞を有するhigh risk群に対するASCPにおける術中の脳虚血がedaravonを投与することで予防、軽減されることを示唆し、さらなる弓部大動脈手術成績の向上に寄与する可能性があると考えられる。
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