研究概要 |
心臓血管外科領域における心血管修復用パッチとして,tissue engineeringを応用し,自己の細胞を術前に培養・播種などさせた生体分解性素材が近年注目されているが,こうした細胞処理はそれ自体が煩雑で侵襲的である他に,感染の危険性などの問題がある.これらを解決するため,我々は個体移植後には高圧系に耐え,遠隔期には消失する生体分解性高分子ポリマーpoly(lactic-co-glycolic acid)をscaffoldとして選択,さらに自己組織化を促進をねらいマイクロスポンジ化したコラーゲンをこれに架橋処理し,生体適合性を高めたパッチ素材(以下PLGA-コラーゲンパッチ)を開発した. in vitroでの基礎的実験に加え,動物実験としてイヌを用い,パッチの肺動脈主幹部への移植実験を行った.移植前に細胞播種を行った群と行わなかった群のそれぞれで移植後(2ヶ月・6ヶ月)の組織学的・生化学的・力学的検討を行ったが,いずれの群でも血栓形成は認めず,PLGA-コラーゲンバッチはほぼ完全に吸収されていた.組織学的には内皮細胞が一層に形成され,それと平行して平滑筋細胞が並び,細胞外成分としても十分な量の弾性線維及び膠原線維を認め,血管壁の再構築がなされていることを示した.また6ヵ月後では移植部位の細胞成分,細胞外成分とも自己組織と同等のレベルにまで達していることも示された.新規開発パッチでは,ex vivoでの細胞処理を行わずしてin situでの組織再構築の誘導,つまり移植部位でのshear stressによる影響,血管内膜の増殖等を考慮した,より自己組織に近い細胞環境,組織を3次元的に構築することが可能であることが示され,生体分解性高分子を基盤とし十分な耐久性も得られたという意味で,今回の研究は技術的にも倫理的にも臨床応用に近いものとして位置づけられる.
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