研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、従来治療が困難な重症虚血性心疾患に対して、血管新生によって心筋虚血の改善をめざす新治療法の開発である。そのため、実験的心筋虚血モデルで血管新生因子および血管内皮前駆細胞を投与し、血管新生と心機能改善効果を評価する。本研究では、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の投与による血管新生の質的・量的評価、心筋アポトーシス、心筋線維化、心室形態および心機能改善をもたらす機序を検討した。SDラットの左冠動脈前下行枝を結紮して心筋梗塞モデルを作成し、梗塞周辺虚血領域に生理食塩水(1群)、bFGF20μg(2群)、ゼラチンハイドロゲルを用いた徐放化bFGF20μg(3群)を投与した。心臓超音波測定装置で、左室形態、壁厚、左室径短縮率を計測した。2、4週後の摘出心で、梗塞範囲、非梗塞部に対する梗塞部の壁厚比を計測し左室リモデリングを定量化した。3群で梗塞部壁厚比は高く、左室拡張は抑制され、左室機能は良好であった。von Willebrand因子の免疫染色で毛細血管密度、α-平滑筋actinの免疫染色で細動脈密度を定量し血管成熟度を評価した。毛細血管密度は4週後に2と3群で高かった。細動脈密度は2、4週後に3群で高く、新生血管の成熟化が認められた。TUNEL法で心筋アポトーシスを定量した結果、梗塞周辺部の心筋アポトーシスは2、3群で少なかった。コラーゲン密度、線維化について3群で差はなかった。総括として、ゼラチンハイドロゲルによる徐放化bFGFはbFGFの血管新生効果を促進し、新生血管の成熟化に働き、心筋アポトーシスを抑制して左室機能改善に有効であった。血管内皮前駆細胞等の細胞移植による血管新生作用の評価は開始したところである。すでにbFGFによる冠血管新生療法の臨床試験を行っており、さらに徐放化bFGFの臨床応用が期待される。
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