研究概要 |
本年度は昨年度検討したCEAに加えて、肺癌細胞で遺伝子発現が比較的高頻度に観察されているHER2、Ki67、VEGF、cytokeratin 19、EGFRに関して検討した。肺癌培養細胞で再度、リアルタイムRT-PCRの至適条件を確認した結果、これらすべてのマーカーについて少数細胞での遺伝子発現を確認できることがわかった。本年は臨床検体を中心に検討することを目的としていたため、治療前肺癌患者30例の末梢血液10mlを採取し、その細胞成分からtotal RNAを抽出して検体とした。検討症例の性別は男性20例、女性10例、組織型は腺癌25例、扁平上皮癌2例、大細胞癌2例、小細胞癌1例、術後病理病期はIA 15例、IB 5例、IIA 1例、IIB 3例、IIIA 3例、IIIB 3例であった。これら6種のマーカーを同時に使用した時、いずれか少なくともひとつのマーカーが陽性となった症例は30例中6例(20%)存在した。病期はIA期1例、IIIA期2例、IIIB期3例であり、病期が進行するほど陽性率が高い傾向を認めた。この結果は他施設からの報告で、肺癌患者の骨髄液中にサイトケラチン陽性細胞を認める率が病期の進行と比例していることと類似した結果と考えられた。 さらに本年度に海外の研究者によって報告されたEGFR(epidermal growth factor receptor)を分子標的とするgefitinibの治療効果が当該遺伝子変異のある症例で顕著であるという結果を受けて、EGFR変異と血中EGFR陽性細胞存在の関係を検討した。上記対象症例の腫瘍組織からDNAを抽出し、EGFR遺伝子変異のホットスポットであるexon 18,19,21についてSSCP法で異常をスクリーニングした。塩基配列を決定したところ、腺癌の8例に異常を検出したが、EGFR変異と血中EGFR陽性細胞の存在には関連がなかった。
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