研究概要 |
平成15年度には研究課題である「虚血耐性メカニズムにおけるDNA修復酵素の役割」についての研究の第一段階として全脳虚血・再灌流モデル(Smith法)における虚血耐性獲得とミトコンドリア依存性アポトーシス抑制の関係について検討した. ラット全脳虚血モデルでは5分間の全脳虚血により90%以上の海馬CA1領域の神経細胞が遅発性神経細胞死を起こして死滅するが,この細胞死にはミトコンドリア依存性アポトーシスが重要な役割を演じると推定されている.一方,3分間の全脳虚血(ischemic preconditioning, IPC)後1-3日にはこれらの神経細胞は強い虚血耐性を獲得し,5分間の虚血を行っても細胞死は10%以下にとどまる.今回,虚血耐性獲得時の細胞死抑制はミトコンドリア依存性アポトーシスの抑制によるものかどうかを検討した.成熟雄Sprague-Dawleyラットを用い,IPCを行わなかった群(IPC(-)群)とIPC1日後の群(IPC(+)群)に5分間の全脳虚血を行い,ミトコンドリア依存性アポトーシスに関連する蛋白について免疫組織染色,Western blotで評価した.IPC(-)群では虚血6時間後にミトコンドリアからcytochrome cの漏出が起こり,続いてcaspase-9,次にcaspase-3が活性化されて虚血3日後には90%の細胞がDNA断片化を起こして死滅した.これに対し,IPC(+)群ではcytochrome-c漏出とそれに続くアポトーシス因子の活性化が有意に抑制され,DNA断片化も減少していた.虚血耐性現象のメカニズムのひとつとしてミトコンドリア依存性アポトーシスの抑制が関与していると考えられた.
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