NF-κB(Nuclear factor-kappa B)は、近年、癌細胞の増殖や癌細胞のapoptosis抵抗性(抗apoptosis)すなわち癌細胞にとって生存維持に重要な役割を果していることが知られている。NF-κBは、活性化に伴って細胞質から核内に移行し転写調節因子として働く機序が明らかとなっている。本研究では悪性グリオーマ細胞のNF-κBを分子標的とした治療の有効性を調べるために基礎的研究を行なった。すなわちグリオーマの悪性化とNF-κBの活性化との関係を調べ、さらにNF-κBを抑制することで放射線感受性などのグリオーマ細胞に生じる性質の変化を調べた。まずNF-κBの活性化がグリオーマの悪性化に関わっていることを調べるために、悪性度の異なるグリオーマ組織を用いて、活性化NF-κBに特異的に反応する抗体を用いて免疫染色を行なった。Mib-1染色を同時に行なった。その結果、悪性度に関わらず活性化NF-κBは、ほぼ全ての核に陽性となった。しかしMib-1 staining indexの高い例では、活性化NF-κBは強陽性になった。次に抗NF-κB作用のある薬剤であるpitavastatinを増殖に影響のない100μMで培養グリオーマ細胞(A172)に作用させてから30Gyまでの放射線照射を行なうと、薬剤前処置の無いコントロールに比べ放射線感受性が数倍増強された。15Gy照射したA172細胞の細胞溶解液の核分画について活性化NF-κB抗体を用いてimmunoblottingを行なうと、薬剤なしのコントロールでは、照射の1.5時間後に活性化NF-κBの急増加が観察され、8時間後には増加が見られなかった。一方、pitavastatinの前処置を行なってから照射したものでは、照射の1.5時間後の活性化NF-κBの急増加が抑制され100μMでは、完全に抑制されていた。このことは、放射線感受性増強作用がpitavastatinによる、NF-κB活性化の抑制機序によることが強く示唆された。 われわれはNF-κBmRNAのantisenseを培養細胞に投与すると増殖が抑制されることを報告しているが、今回の研究結果と合わせてNF-κBがグリオーマ治療における分子標的となることが、十分期待できるものと思われた。
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