研究課題/領域番号 |
15591527
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
藤井 正美 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (90181320)
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研究分担者 |
鈴木 倫保 山口大学, 医学部, 教授 (80196873)
末廣 栄一 山口大学, 医学部附属病院, 助手 (10363110)
斉藤 俊 山口大学, 大学院・医学研究科, 教授 (10162207)
中野 公彦 山口大学, 工学部, 助教授 (90325241)
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キーワード | てんかん放電 / てんかん手術 / ペルチエ素子 / 大脳冷却 / 脳波 / 医用材料 / カイニン酸 / ラット |
研究概要 |
はじめに:難治性てんかんに対し外科治療が行われている。しかし、手術により神経脱落症状の出現が予想される場合、手術が困難なことも少なくない。そこで近年切除手術以外の治療法が模索されている。そのひとつとして、2001年Yangらが、熱電素子を用いた大脳冷却法によるてんかん放電の抑制効果を報告して以来、脳冷却法が治療法として注目を集めている。そこで我々も熱電素子を用いた局所大脳冷却装置を作成し、実用化に向けてさらに詳細な実験的検討を行った。 動物実験およびその結果:冷却装置としては、熱電素子(ペルチエ素子)を用いた。これは電流を流すことで2種類の金属の間に熱勾配が生じる現象(ペルチエ効果)を利用したもので、片面は冷却が起こり、片面は放熱により高温(60〜70℃)となる。この放熱による片面の温度上昇を抑えるため、アルミニウム製の枠を素子周囲に取り付け、その内部に水路を形成し、冷却水を流す工夫をおこなった。冷却に用いる水の温度は、体内埋め込みを想定し、37℃に設定し実験を行った。ハロセン麻酔下に雄ラット(500-590g)の頭頂側頭部を開頭し、脳表に熱伝素子からなる大脳冷却装置、温度計および脳波電極を設置した。そして皮質下2mmにカイニン酸を3μg定位的に注入することでてんかんモデルを作成した。熱電素子に1Aの電流を流すことにより冷却を行った。冷却後、脳表温は22〜24℃に低下した。このときてんかん放電は冷却開始より高振幅の異常放電が減少した。また組織学的にも脳表温20℃、30分間の冷却温度では明らかな大脳の組織変化はみられなかった。 考察および今後の展望:熱電素子は形状が小型で薄型にできるため、新しい医用材料として将来の埋め込み式脳冷却装置の開発が期待できる材料のひとつと考えられる。しかし実際体内埋め込み式にする場合、放熱による片面の温度上昇をいかに制御するかという問題点があったが、今回体温とほぼ同じ37℃の冷却水を灌流させることで脳表を22-24℃に冷却が可能であったことより、体内埋め込み式への展望が開けてきた。しかしながら体内埋め込み式の装置を開発するには、深部を冷却する装置の形状、冷却水を還流させるマイクロポンプ、てんかん放電を感知し冷却を開始させるシステム、埋め込み型電源など、改良しなければならない点は多い。工学の分野では医療工学の発展はめざましく、将来新しい精密医用機器の開発により、局所大脳冷却がてんかん治療の一選択肢となりうる可能性が示唆される。
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