研究概要 |
砂ネズミ5分間前脳虚血により、虚血負荷7日後の海馬CA1領域ニューロンはほぼ死滅する。本モデルに対し免疫抑制剤のFK506(10mg/kg)は、虚血後6時間目まで神経保護効果が認められた。このような脳虚血後の薬剤投与でも神経細胞を救えるメカニズムの解明のために、FK506の細胞内受容体であるFK506-binding protein(FKBP12)の細胞質での変動を検討した。その結果、保護効果のみられた虚血後6時間までに細胞質のFKBP12量に変化を認めず、24時間後に増加した。つまり、保護効果のみられる時間帯とFKBP12の細胞質での経時的変化に相関性はみられず、FKBP12を介さない可能性が示唆された(Neurosci Lett,2003)。 そこで、このFK506が蛋白合成能と蛋白合成関連因子に及ぼす影響について検討した。蛋白合成関連因子のeIF2は虚血再潅流後早期にリン酸化され、その後の蛋白合成能が障害される。今回FK506を5分虚血後に投与し、その後のリン酸化eIF2の経時的変化及び蛋白合成能を調べた。その結果、単純虚血群では海馬CA1では虚血30分後でリン酸化eIF2αのバンドが強く検出され、12時間後までほぼ変化が無かったが、神経細胞死の起こらない海馬CA3では虚血9時間後よりバンド量が減少した。一方、FK506投与群では海馬CA1、CA3共に虚血30分、1時間、3時間後のリン酸化eIF2αのバンドはわずかに検出されるのみであった。また、^<14>C-Leucine Autoradiographyによる蛋白合成能を検討した結果、単純虚血群では、海馬CA1領域では蛋白合成能の回復がみられなかったが、FK506投与群では、虚血後3時間よりアミノ酸の取り込みが認められた。したがってFK506の神経細胞保護効果のメカニズムは、eIF2の脱リン酸化による蛋白合成能の回復と考えられた。
|