研究概要 |
ヒト大脳基底核は運動調節や体性感覚統合および学習や記憶などに密接に関与しているが,回路網の詳細には不明な点が多く,大脳基底核疾患においては治療標的の特定に難渋している.大脳基底核障害患者に経時的PET検査を施行し,神経回路網の機能的変化を可視化して神経回路の可塑性を検討することとした. パーキンソン病患者において,^<11>C-diacylglycerol-PETを用いてphosphoinositide turnoverを測定することにより,pallidothalamic systemの神経回路活動を視覚化した.正常被験者では,運動野や基底核でのpostsynaptic responseとしての再現性に乏しく,単純な運動負荷ではpallidothalamic systemの活性化には変化がみられなかった.パーキンソン病患者では単純な運動負荷でもrepeatableな反応が現われ,線状体でのphosphoinositide turnoverが亢進し,また同側視床の活性が抑制されpallidothalamic systemのレスポンスが観察された.すなわち,パーキンソン病における視床下核を介する間接路の優位性が示された.また,大脳基底核部腫瘍患者に^<18>F-fluorodopa-PETを施行し,治療前後でドパミン細胞シナプス前部機能を評価した.脳実質内発育を示す瀰漫性腫瘍ではドパミン細胞が腫瘍内に分散化し,実質外発育を示す腫瘍ではドパミン細胞の圧排性集積が確認され,腫瘍の質的診断に寄与することが新たに判明し,治療後にドパミン細胞シナプス前部機能が回復することが確認された. PET検査で得られた大脳基底核部神経伝達物質代謝の生化学情報を定量解析して既知の神経回路網と対比しながら神経症状の推移を考慮することにより,大脳基底核部における神経回路可塑性のメカニズムが解明されると期待される。
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