研究概要 |
悪性神経膠腫(glioblastoma及びanaplastic astrocytoma)13例から腫瘍DNAの抽出を行った。実際の腫瘍細胞における遺伝子レベルでのDNAコピー数の異常の有無を知るために,この腫瘍DNAを対象としてゲノムDNAマイクロアレイ法による約300種類の遺伝子についての解析を行った。その結果,増幅を示した遺伝子としてはEGFR(7p12.3-p12.1)が全症例の約40%と最も高頻度に検出された。欠失を示した遺伝子として頻度の高かったものは,MTAP(gp21.3),FGFR2(10q26),DMBT1(10q25.3-q26.1)であった。Comparative genomic hybridization(CGH)の結果から7番染色体短腕(7p)のDNAコピー数の増加(gain)及び10番染色体長腕(10q)の減少(loss)を認めた症例が予後不良例である可能性が示唆されていたが、EGFRの増幅症例と非増幅症例の間において,その生存率や補充療法(放射線療法・化学療法)に対する反応性との間には統計学的な有意差は認められず、EGFRは悪性神経膠腫の発生・増殖に重要であるが、予後を規定する因子としての可能性は低いと考えられた。またCGHの結果で7pのgainを認めた症例中においても、EGFRの増幅を示さない例が存在し、CGHにおける7pのgainにはEGFR以外の遺伝子の増幅が影響している可能性も示唆された。悪性神経膠腫における10qの欠失は良く知られており,10q上に存在するPTEN(10q23.3)の係わりが多数報告されている。今回の結果ではPTENの欠失以外にも,前述のEGFR2,DMBT1の欠失が高頻度に検出された。この両遺伝子とMTAPの欠失については過去に悪性神経膠腫における報告はなく,あらたな関連遺伝子異常である可能性がある。
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