研究概要 |
悪性神経膠腫(グリオーマ)の治療を困難としている原因の1つに、旺盛な腫瘍細胞の浸潤能があげられる。従って腫瘍の浸潤能を亢進させるメカニズムと関与する分子群を明らかにし、これらを標的とする治療法を開発することは非常に重要である。本研究ではヒト悪性神経膠腫でのMAPKの亢進程度を明らかにし、MAPKシグナル伝達系が、腫瘍細胞の運動/浸潤能制御因子として腫瘍細胞浸潤に直接寄与するかを検証すること、また悪性グリオーマの治療標的となりうるかを検討することを目的とした。本研究の結果、手術で摘出したヒト悪性神経膠腫組織ではMAPK活性が亢進していることが明らかとなった。MAPK活性が亢進したグリオーマ細胞を樹立する目的で、HA-tagをもつconstitutively active MAPK kinase(MEK)cDNA、wild-type MEK(wtMEK)cDNAをそれぞれ悪性グリオーマ細胞LN-Z308に遺伝子導入し,恒常的にMAPK活性の高い細胞とMAPK活性がわずかに高い細胞を樹立した.樹立した細胞株をヌードマウスの脳内に移植しin vivo脳腫瘍モデルを用いて、MAPK活性が腫瘍浸潤能に与える影響を組織学的に検討した.Constitutively active MEKを発現するMAPK活性が恒常的に高い腫瘍組織では周囲脳への浸潤亢進がみられたが、MAPK活性がわずかに高いwtMEK発現腫瘍では腫瘍細胞浸潤はみられなかった.また、移植腫瘍細胞の脳内での浸潤動態をより詳細に検討するため、抗HA抗体を用いた免疫組織染色法を行なった。その結果、ヒト悪性神経膠腫組織で見られるように、移植脳内でもMAPK活性が亢進したグリオーマ細胞が既存の血管周囲、くも膜下腔に浸潤している様子が明らかとなった。以上より,悪性神経膠腫ではMAPKが亢進しており,MAPKの亢進はグリオーマの浸潤に関与する可能性が示された.従って、悪性グリオーマの予後不良因子の一つである腫瘍細胞浸潤を抑制する標的分子の1つとしてMAPKシグナル伝達系が重要であると考えられる。
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