研究概要 |
亜酸化窒素は脳幹部(橋)のノルエピネフリン産生ニューロンを賦活し,同時に脊髄でノルエピネフリンを放出し,アドレナリン作動性α1受容体を介して,GABA作動性ニューロンを賦活することが知られている。今回は,(1)亜酸化窒素負荷により脊髄で放出されるノルエピネフリンは,確かに橋のノルエピネフリン産生ニューロン由来のものなのか,また,(2)どのような機序で亜酸化窒素が橋のノルエピネフリン産生ニューロンを賦活するかについて研究した。 ラットの脳幹部ノルエピネフリン産生ニューロンを選択的に破壊するために,オスのFischerラットの側脳室内にanti-dopamine _-hydroxylase-saporin(D_H-saporin)を投与した。対照群(ノルエピネフリン産生ニューロンを破壊しない群)には,側脳室内に生理的食塩水を投与した。側脳室内投与の14日後に75%亜酸化窒素と25%酸素の混合ガスに90分間暴露し,その後パラホルムアルデヒドで固定した。免疫組織染色により腰髄のc-Fosを染色した。腰髄のc-Fos陽性細胞の数は,脳幹部ノルエピネフリン産生ニューロンを破壊したラットでは増加しなかったが,対照群では増加した。亜酸化窒素負荷により脊髄で増加するc-Fos陽性細胞は,α1受容体を持つGABA作動性ニューロンであることが知られているので,今回の研究から,亜酸化窒素による脊髄でのGABA作動性ニューロンの賦活には,脳幹部のノルエピネフリン産生ニューロンが必要であることが示された。 また,亜酸化窒素が橋のノルエピネフリン産生ニューロンを賦活する機序を明らかにするために,オスのFischerラットの側脳室内に,コルチコトロピン放出因子受容体の拮抗薬であるalpha-helical CRH,または生理食塩水(対照群)を投与し,その後,75%亜酸化窒素を90分間負荷した。対照群では青斑核などのノルエピネフリン産生ニューロンでc-Fosの発現が見られたが,alpha-helical CRHを投与した群ではc-Fosの発現は見られなかった。脳室内にμオピオイド受容体作動薬のDAMGO投与して,その後,75%亜酸化窒素を90分間負荷した場合は,青斑核などのノルエピネフリン産生ニューロンでc-Fosの発現は抑制されなかった。結論としては,亜酸化窒素は脳幹部でコルチコトロピン放出因子受容体を介して,ノルエピネフリン産生ニューロンを賦活することが明らかとなった。オピオイド受容体作動薬は,亜酸化窒素によるノルエピネフリン産生ニューロンの賦活を抑制することが予想されたが,実際は抑制しなかった。
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