研究概要 |
10-15週齢のBalb-cAJc1マウスを用いて,Toll-like受容体4(TLR4)の主要臓器の発現が炎症の進行に伴いどのように変化するかを検討した。グラム陰性菌lipopolysaccharide(LPS)をリガンドとするTLR4は肺,心房筋,心室筋,肝臓,腎臓,脾臓などの主要臓器に認められた。中でも,肺の発現は高く,免疫組織染色では気管支上皮細胞に多く分布していた。LPSを気管内投与すると,気管支上皮細胞のアポトーシスと気管支上皮細胞のTLR4含有量が減った。肺へのLPS投与の進行によりTLR4の血管内皮細胞への発現シフトが認められ,グラム陰性菌の呼吸器感染症により炎症の場が血管側にシフトすることを見出し,slide attackと命名した。この肺炎を起こしている病態でのLPS少量の静脈内投与では,肺炎を合併していない病態と比較して,肺微小血管の血栓閉塞を強く生じさせた。また,このLPS気管内投与により,TLR2がII型肺胞上皮細胞と血管内皮細胞に発現上昇することを見出し,グラム陰性菌感染症に続発するグラム陽性菌感染症により,急性肺傷害が強く生じる可能性を確認した。このような炎症の強く生じた病態では結果的に転写因子NF-kBやAP-1の活性が高まっており,iNOS,COX2,接着分子,組織因子などの炎症性物質がTLR4やTLR2の発現に一致して,過剰発現していた。 一方,心臓では心室筋より心房筋に発現が強く認められ,右心房での発現が強かった。肝臓,腎臓にも認められたが,特に腎臓は,LPS投与後や盲腸を結紮穿孔した群で,TLR4の発現が増強した。こうした病態におけるTLR4発現は,正常では発現の低い近位尿細管を中心に増強していることがわかり,macrophage migration inhibitory factor(MIF)が尿細管再吸収を受ける過程で,TLR4発現を増強させる可能性が示唆された。MIFノックアウトマウスやMIF抗体を用いた研究では,盲腸結紮穿孔によるTLR4の腎尿細管での過剰産生は,十分に抑制された。TLR4は,同一臓器内のみならず,グラム陰性菌感染症の病期に準じて,臓器発現を変える可能性が示唆され,炎症の進行した時期に新たにグラム陰性桿菌感染症に罹患すると,腎機能障害,急性尿細管アポトーシスを起こしやすいことが示唆された。このように,臓器間でも炎症性物質を仲介して,TLR4の発現調節が行われ,炎症が伝播される可能性があり,グラム陰性桿菌感染症において臓器不全の生じやすい順番を説明する一助になると考えられる。 今回の研究では主要臓器に発現するTLR4とTLR2の敗血症の進行による発現変化を検討した。TLR4とTLR2を有する部位は炎症の過程でアポトーシスを起こし脱落する傾向を示し,炎症の部位はそれらの受容体の発現変化を介して,近傍に伝播する傾向を見せた。
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