1.BALB/cマウスの坐骨神経近傍にMeth A sarcoma細胞を接種し、腫瘍の発育により生じる神経障害性疼痛の動物モデルを作成した。本モデルでは、初期には疼痛過敏を生じたが、その後、疼痛刺激に対して知覚鈍麻を生じた反面、自発痛の指標である後肢挙上行動は進行性に増加した。 2.坐骨神経の肉眼的所見では、後肢挙上のおこったマウスでは、坐骨神経は腫瘍塊の中を通っており、非常に細く、腫瘍に圧迫されていたと考えられた。これに対し、後肢挙上のおこらなかった一部のマウス(8%)では、坐骨神経は腫瘍の表層に存在し、腫瘍により伸展されたと考えられた。以上から、自発痛の発現の有無は腫瘍細胞等より放出されるサイトカイン等によるのではなく腫瘍による機械的障害が関与すると考えられた。 3.坐骨神経の病理学的検討では、がん細胞接種後18日目では有髄線維に比べ無髄線維の障害が強く見られたが、25日目には両者とも強度に障害されていた。 4.脊髄後角障害側ではsubstance P、CGRP陽性線維は初期に増加したが、その後正常より低下した。これに対し、dynorphin A陽性細胞の増加は持続した。astrocyteのマーカーであるGFAPの陽性細胞は、脊髄灰白質全体で肥大化・増加した状態が持続した。c-fosは脊髄後角障害側で増加し、その数は、後肢挙上持続時間と相関した。このことより、脊髄後角のc-fos陽性細胞数は、自発痛の指標となることが示唆された。 5.後肢挙上のおこらなかったマウスの脊髄では、c-fos陽性細胞の増加は見られなかった。また、dynorphin A陽性細胞の増加もみられなかったが、GFAPの陽性細胞の肥大化・増加は後肢挙上の起こったマウスと同様にみられた。以上より、astrocyteの活性化は、自発痛発現の十分条件ではないと考えられた。また、dynorphin Aと自発痛との関連が示唆された。
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