局所麻酔薬の神経毒性の神経線維選択性に関する研究の第1段階で、われわれはラットクモ膜下腔に投与されたリドカインとブピバカインの神経毒性の比較を行った。そしてその結果、われわれのラットモデルで組織学的検討が可能であること、特に電子顕微鏡下での検討が容易に出来、有髄線維と無髄線維の組織学的な検討が可能であることを発見した。その後、ラセミ体のブピバカインの2つの光学異性体であるレボブピバカインとデキストロブピバカインの神経毒性を同様の方法で行い、光学異性体が神経毒性に与える影響を電子顕微鏡下で有髄・無髄線維ともに観察した。その結果、等価のラセミ体ブピバカインとその光学異性体のレボブピバカインとデキストロブピバカインの神経毒性には差がないこと、そして3種類の薬剤の神経毒性の影響は有髄線維、無髄線維共に出現することを明らかにした。当該年度は3年目にあたり、硬膜外腔に持続的に投与した局所麻酔薬が神経毒性を示す様子を観察した。方法は、ラットに硬膜外カテーテルを挿入し、持続注入時間を変えてリドカインを投与し、4日後に機能テストを施行した。その後、脊髄および脊髄神経根を摘出し、標本を光学および電子顕微鏡で組織学的に評価した。質的評価と共に、既存の神経損傷スコアを用いた定量的評価を光顕下で行った。 結果は、リドカイン投与後4日目のTF値の%MPEは用量依存的に上昇した。神経根の神経損傷スコアも同様に用量依存的に上昇した。電子顕微鏡像では、馬尾神経が有髄線維、無髄線維ともに同程度の損傷を受けている所見が認められた。 以上の結果から、硬膜外腔に投与した局所麻酔薬の神経毒性も神経の種類を問わず発現することがわかった。
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