研究概要 |
2004年に全国の麻酔科認定施設で発生した手術手技、特に手術が原因の出血に起因する心停止ならびに高度低血圧症例に関するアンケート調査を行なった。2003年に得られた症例と併せて計805症例に関して解析を行なった. その結果,(1)術中総出血量は体重60kg換算で12l以上という超大量出血が約1/3を占める一方,6l以下という循環血液量相当以下の出血も約1/3を占める,(2)体重60kg換算で360ml/分以上という超急速出血症例が30%を占める一方,240ml/分以下の症例,つまり急速輸血装置2台程度で何とかしのげたのではないかと想像される症例も28%を占める,(3)高度貧血を呈する症例もあるものの貧血の程度は軽度の症例も多い,(4)患者の術前重症度別に見ると軽症群よりも重症群で発生率が約7倍高い,(5)輸血ガイドラインに示されている緊急避難的輸血法の実施率は低い,ことが判明した. 以上のことから,出血そのものが危機的な症例がある一方で,出血そのものはそれ程ではなくても危機的な状況に拡大する症例があることが判明し,手術出血死回避の道が残されていることが判る.危機的な偶発症への拡大要因としては手術や患者の術前重症度以外に,麻酔管理や血液供給の問題,さらに緊急避難的輸血法の未施行が占める割合も少なくなく,手術出血による偶発症回避には組織的な対応が必要と考えられる. このような解析結果をもとに,日本麻酔科学会と日本輸血学会の合同作業で「危機的出血への対応ガイドライン(仮)」が作成されつつある.
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