研究概要 |
腎虚血再潅流障害において転写因子であるNFkBの活性化と、それに伴うアポトーシス誘導が関与していることが動物実験と培養細胞を用いた実験の両方において報告されている。一方、吸入麻酔薬イソフルランは腎虚血再潅流障害において腎保護効果を有することが示唆されているが、イソフルランが腎虚血再潅流障害時のNFkB活性化に与える影響については報告されていない。 我々は、イソフルランが腎虚血再潅流時のNFkB活性化に及ぼす影響を検討するために、報告に倣い、ブタ上皮細胞由来のLLC-PK1を用いた虚血再潅流モデルを作成した。ミネラルオイルによってシミュレートされた虚血刺激は転写因子であるNFkBの活性化を起こすことが、培養LLC-PK1細胞より精製した核抽出液内のNFkB量をELISA法によって測定することで確認された。このモデルにおいて吸入麻酔薬であるイソフルランを細胞に30分間前処置すると虚血刺激によって増加するNFkB活性が有意に抑制されることが観察された。虚血刺激を与えないイソフルラン単独投与はNFkB活性化に対して特に影響は与えなかったことから、イソフルラン前処置が虚血刺激によって引き起こされるNFkBシグナル伝達を抑制することによって細胞核内で作用する転写因子であるNFkB量を減少させることがメカニズムとして考えられた。 この観察結果を2003年10月にアメリカ合衆国、サンフランシスコにおいて開催されたアメリカ麻酔学会において「Isoflurane inhibits NFkB activation in response to simulated ischemia in renal tubular cell line, LLC-PK1」と題して発表した。
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