局所麻酔薬を脊髄くも膜下麻酔に用いると馬尾症候群やtransient neurologic symptomなどの神経傷害を起こす。どの局所麻酔薬にも神経毒性があるが、そのメカニズムは不明である。平成15年度は、局所麻酔薬は神経細胞を破壊するが、同じNa^+チャネル遮断薬のテトロドトキシンは、細胞の興奮を抑える濃度の100μMでも変化がなく、500μMまで濃度を増加させても破壊は認められなかった。平成16年度は、Na^+の作用を調べるために、培養中枢神経細胞に局所麻酔薬を投与し、細胞内Na^+濃度を比較する実験を行った。 方法:培養中枢神経細胞を用い、ディッシュ内に1mMのSBFI-AMを加え、60分間放置してからwash-outした。ディッシュ内にリドカインまたはテトロドトキシンを加え、細胞内Na^+濃度の変化を測定した。SBFIによる蛍光は、340/390nmの光を与え510nmの励起光を測定することで細胞内Na^+濃度を測定した。ディッシュ内のリドカイン濃度は、0.01mM、0.1mM、1mMになるようにした。また、ホールセルパッチクランプを用いて、リドカインまたはテトロドトキシンを加えNa^+電流を測定した。 結果:テトロドトキシンは細胞内Na^+濃度を上昇させなかったが、リドカインは、細胞内Na^+濃度を上昇させた。リドカインは、Na^+電流を抑制するにもかかわらず、細胞内Na^+濃度を増加させた。 以上のことから、外側からNa^+チャネルをブロックするテトロドトキシンでは細胞は破壊されず、細胞内から作用するリドカインは、Na^+チャネルをブロックする作用の他に、膜電位を上昇させ、細胞の興奮性を高め、細胞内Na^+濃度を増加させる作用があることが明らかになった。
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