研究概要 |
末梢レベルにおいては腫瘍細胞から産生される種々のchemical mediatorががん性疼痛の発生・維持に寄与していることが示唆されている.これらchemical mediatorの中で特にエンドセリン-1に注目する.臨床研究において悪性腫瘍による疼痛に対するエンドセリン-1の関与が示唆されている.また,マウスがん性疼痛モデルにおいて腫瘍細胞移植部周辺組織でエンドセリン-1濃度が増加することが知られている.したがって,エンドセリン-1はがん性疼痛治療の新たなターゲットとなる可能性がある,しかしながら,エンドセリン-1がどのように疼痛を惹起するのか,どのようにがん性疼痛を修飾するのかの詳細は不明である.これまでに,培養マウス後根神経節細胞を用い細胞内カルシウム濃度の変化を指標にエンドセリン-1とカプサイシン受容体の相互作用を検討している.カプサイシン受容体は熱,化学物質による刺激およびpHの低下を感知する侵害受容器(痛み受容器)として考えられている.これまでの研究によりエンドセリン-1がカプサイシン受容体のカプサイシンに対する閾値と反応性を増強することが明らかとなった.この細胞内機序としてエンドセリン-1がET-A受容体を活性化することによりPKCを賦活化しカプサイシン受容体のリン酸化を引き起こすことが明らかとなった.このエンドセリン-1の効果がPKC epsilon inhibitor peptideによって抑制されることから関与しているPKCアイソザイムはepsilonであると考えられる.また,培養細胞にエンドセリン-1を負荷し免疫染色法によってPKC epsilonの局在を検討したところ,エンドセリン-1によりPKC epsilonが細胞質から膜へtranslocationすることが明らかとなり,PKC epsilon inhibitor peptideでの実験結果を支持する.今後,他のPKCアイソザイムの関与を検討するとともに,熱刺激を用いて同様の実験を行う予定である.
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