研究概要 |
がん性疼痛の機序の1つとして腫瘍や炎症細胞から産生されるエンドセリン-1(ET-1)の痛覚神経線維への作用が報告されている.しかしながら,その機序は明らかになっていない.そこで本研究ではET-1の侵害受容伝達機構における細胞内機序を明らかにするために,細胞内カルシウム濃度([Ca^<2+>]_i)測定および免疫組織化学的手法を用いて,カプサイシン感受性後根神経節(dorsal root ganglion, DRG)神経細胞に対するET-1の効果を検討した. (結果) 培養DRG神経細胞においてカプサイシンは[Ca^<2+>]_iを増加させた.カプサイシン誘起[Ca^<2+>]_iは,10nM ET-1の前投与により増強された.10nMカプサイシンに反応した神経細胞の45.5%が10nM ET-1の前投与により増強された.このET-1による増強作用は選択的ET_A受容体拮抗薬投与により完全に抑制されたが,選択的ET_B受容体拮抗薬では抑制されなかった.次にET-1による増強作用に対するPKCの関与を調べた.選択的PKC拮抗薬によりET-1の増強作用は有意に抑制された.PKCサブタイプの中でPKCεは侵害受容器を感作することが報告されているのでET-1による増強効果に対するPKCεの関与を調べた.選択的PKCε拮抗薬によりET-1による増強作用は有意に抑制された.免疫組織化学的検討では,PKCεはTRPV1陽性神経細胞の94.2%に観察された.ET-1の投与により,PKCεの免疫反応は細胞膜側に強く観察された.このET-1投与によるPKCεの免疫反応の分布変化はTRPV1陽性神経細胞の25/64に観察された. (結論) ET-1はET_A受容体を活性化し,PKCε依存性に末梢神経での侵害情報伝達を修飾することが明らかになった.ET-1はがん性疼痛の形成・維持に関与している.したがって,本研究による知見は,がん性疼痛の新しい治療戦略を提示すると考えられる.
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