研究計画最終年度である本年度は、昨年度に明らかにした長期タバコ喫煙による肺気腫モデルを用いて、吸入麻酔薬セボフルランが、どのような機序で通常の喘息モデルでの弛緩作用を示さないのかを細胞レベルで検討した。まずはじめに、モルモット肺気腫モデルの気管リングを取り出し、重要なセカンドメッセンジャーである細胞内カルシウムイオン濃度([Ca^<2+>]_i)と同時に平滑筋張力を測定した。対照群においてセボフルランは良好な弛緩作用を示したにもかかわらず、肺気腫モデルではその弛緩作用が減弱していた。[Ca^<2+>]_iの低下作用も小さかった。これは、in vivoにおけるセボフルランの弛緩減弱作用がin vitroにおいても証明されたことを意味する。次に、[Ca^<2+>]_iの調節に重要な電位依存性カルシウムチャネル(VDCC : voltage-dependent calcium channel)の活性をperforated whole-cellパッチクランプ法で測定した。セボフルランは、対照群において濃度依存性の強力な抑制作用を呈したが、肺気腫モデルではその抑制効果が減弱していた。つまり、吸入麻酔薬の気道平滑筋弛緩作用の減弱がチャネルレベルでも起きていることを意味する。Conventional whole-cellパッチクランプ法を用いた場合、対照群とのチャネル抑制効果の相違が認められなくなることから、何らかの細胞内セカンドメッセンジャーを介したチャネル活性の修飾作用であることが予想される。最後に、カルシウムチャネル活性を修飾する作用のある細胞内cyclic AMPレベルを測定した。その結果、セボフルランのcyclic AMPレベル上昇作用が肺気腫モデルで減弱しているのが明らかとなった。これらの研究結果は、2006年6月に行われる日本麻酔科学会ならびに10月に行われるアメリカ麻酔学会で発表を行う予定である。
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