心拍変動周波数分析析上で高周波成分として表され、迷走神経活動の変調により生み出される呼吸性洞性不整脈の役割は長らく不明であった。この呼吸性洞性不整脈(Respiratory Sinus Arrhythmia : RSA)のもつ肺におけるガス交換効率を促進する機能を人において検討した。 迷走神経活動の変調が保たれる自発呼吸下の生物において、呼吸および循環に対する純粋な呼吸性洞性不整脈のみの影響を調べることは困難である。すなわち呼吸性洞性不整脈の大きさに影響する一回換気量、呼吸数、CO_2分圧は同時に変動するため、個々の影響が死腔、肺内シャントなどの呼吸パラメータに及ぼす影響を検討することは難しい。 自発呼吸下に呼吸数、一回換気量、動脈血CO_2濃度のうち一つのパラメータのみを変化させ、その変化させたパラメータの影響のみを調べる実験系を確立し解剖学的死腔、肺胞死腔、CO_2排泄に寄与する肺血流量を測定するシステムを確立中である。換気量増加時でもCO_2レベルを一定に保つ呼吸回路を用いて、呼吸数、一回換気量、動脈血CO_2濃度のうち一つのみを変化させる実験系を作り、既存の呼吸モニター(Novametrics社製 NICO)で得られる測定値をもとにCO_2吸入下でも解剖学的死腔、肺胞死腔を測定する方法を、呼吸モニターからアナログデジタルボードを介してパソコンに取り込んだ一回呼吸CO_2曲線を使用して開発中である。 現在までに、作成した換気パラメータ(解剖学的死腔量、肺胞死腔量、CO_2産生に寄与する肺血流量)を測定するシステムを用い意識下自発呼吸下での呼吸性洞性不整脈がガス交換能に及ぼす影響を調べた。健康成人ボランティアで調べた結果、アトロピンによる迷走神経ブロックにより呼吸性洞性不整脈の発生を抑制すると肺における酸素交換効率が悪化することが判明した。二酸化炭素の交換効率は現在継続調査中である。
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