本年度は末梢における炎症情報が中枢神経系に伝達され、中枢性痛覚過敏を惹起するメカニズムの一端を調べる準備段階として、まず各種炎症性疼痛モデルの作成および足底部の浮腫、痛覚過敏の経時的変化をカラゲニンモデルでは6時間後までアジュヴァントモデルでは21日後まで観察した。カラゲニンモデルでは浮腫はカラゲニン注射直後より6時間後まで持続し、痛覚過敏も1時間後から発症し3時間後には最高に達し以後6時間後まで同程度に持続した。アジュヴァントモデルでは3時間後より浮腫、痛覚過敏ともに発症、その後経日的に増強し、2-3週間で対側下肢さらには全身にまで波及した。 次に中枢神経系への炎症性情報伝達に関与するメディエーターを検索した。炎症局所において免疫組織学的検索によりインターロイキン1β(IL-1β)産生細胞が以前に確認されたため、ELISA法にて循環液中の濃度を測定したが、いずれのモデルにおいても有意な上昇は認められなかった。それに対し、インターロイキン6(IL-6)は炎症初期に循環血液中で有意な上昇を認めた。そこでIL-1βの産生を抑制するinterleukin converting enzyme inhibitorを全身投与したところ、痛覚過敏、中枢神経血管内皮細胞におけるシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)産生ともに抑制されなかった。それに対しIL-6に対する抗血清を全身投与したところ痛覚過敏、COX-2の発現ともに抑制されるという結果を得た。これらの結果より、炎症局所から中枢神経系への炎症情報伝達物質としてのIL-6の可能性が示唆された。なお我々は末梢性炎症時に中枢神経系の興奮性増強に関与するプロスタグランディンが、COX-2依存性に血管内皮細胞において産生されることを確認している。
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