全身麻酔は健忘、鎮静、鎮痛、不動化、自律神経抑制などの要素から成る複合現象であり、麻酔薬の種類によってそれぞれの要素への作用強度が異なる。吸入麻酔薬ハロタン、イソフルレンと静脈麻酔薬プロポフォール、ジアゼパムの抑制性シナプス伝達へのmodulation作用について調査する目的で、Synaptic Networkが構築されたラット皮質ニューロンの初代培養標本から、パッチクランプ法をもちいて自発性抑制性シナプス後電流(miniature IPSC)を調査した。麻酔薬はシナプス後膜への効果として抑制性GABAergicなシナプス伝達を増強する作用があり、それぞれの麻酔薬がCl^-電流を増強することを確認した。しかしながら、そのminiature IPSCにおいて、ハロタン、イソフルレンはプロポフォールと比較して、よりdecay phaseを延長させた(1.2倍)がamplitudeは減少させる(0.8倍)結果となり、Cl^-電流の動態が一様でないことが推測された。単一チャネルにおいてkineticsを調査するため、cell-attachedモード下で解析を行ったところ、それぞれの麻酔薬によりコンダクタンスは変化せず、開口確率が増加することが確認された。さらにハロタン、イソフルレンではmean open timeの延長、プロポフォールではinterburst intervalの低下が観察された。これが麻酔薬による抑制性シナプス後電流の増強につながることが考えられるが、薬剤によりCl^-チャネルの開口確率の増加、開寿命の延長、あるいは閉寿命の短縮へ及ぼす作用に相違があり、臨床作用と関連づけて考察する必要がある。
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