従来半数体精子細胞に分化した後、新たに起こる転写は精子の等価性を保つ上でも、非常に少ないと考えられていた。しかし、我々はマウスを実験動物とし、精細胞特異的モノクローナル、ポリクローナル抗体を作成、それらを用いた精細胞特異的遺伝子のクローニング法や、新たに開発したサブトラクションクローニング法によって、80種以上の精子細胞特異的遺伝子を単離することに成功した。一方、技術の進歩によって、ICSIによる不妊治療法が確立されたが、これによって生まれた人に不妊症が遺伝することが最近明らかとなってきた。これらの事実は、男性不妊症は遺伝子変化によって引き起こされ、精細胞特異的遺伝子は、その発現の特異性から精細胞分化においてのみその役割を果たしており、それらの欠失・変異が男性不妊症の原因になっていることが示唆される。 最近我々は、精子細胞特異的遺伝子群が全染色体DNA上に、イントロンを持たないか、非常に小さなゲノムとして散在することを突き止めた。これらの特色をいかし、血液から抽出したゲノムDNAをもちい、直接これら遺伝子のDNAシークエンスを調べ、その変化を同定することができる。上記の方法で男性不妊患者と妊よう性の確認された男性でのこれら特異的発現遺伝子の変化を調べた。また、得られた精細胞特異的に発現する80種以上の遺伝子のうち10遺伝子について機能を欠失させたマウスを作成し、男性不妊のメカニズムを個体レベルで解明し、男性不妊症疾患モデル動物として確立した。
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