研究概要 |
本研究の目的は、尿路に形成された黄色ブドウ球菌ないし腸球菌のバイオフィルムに関して、病原性遺伝子および薬剤耐性遺伝子がもたらす基礎的・臨床的問題点を把握して、院内感染症の諸問題に対処するための方策を検討することである。今年度は、岡山大学泌尿器科における尿路感染症患者由来のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)およびE.faecalisのバイオフィルム形成能を定量化し、その付着・定着・病原性に関与する遺伝子の保有状況および臨床背景との関連性についての検討を行い、下記の研究成果を得た。 1)MRSA 109株(1990〜2001年)を対象とした。8遺伝子(tst, sec, hla, hlb, fnbA, clfA, icaA, agrII)が対象株から高率に検出された。hla, hlb, fnbAを保有する菌株でバイオフィルム形成能が高かった。カテーテル留置症例から分離されたMRSAは、非留置症例から分離されたMRSAに比べ有意にバイオフィルム形成能が高かった。hla, hlb, fnbAの保有率は、カテーテル留置症例から分離されたMRSAにおいて高かった。以上の成績より、尿路におけるMRSAの定着、感染にhla, hlb, fnbA遺伝子産物の関与が示唆された。. 2)E.faecalis 362株(1991〜2002年)を対象とした。asal, esp, cylA, gelE-sprEの保有率は、それぞれ82.6,71.8,47.2,87.0%であった。asal, esp保有の有無(4群間)で検討を行うと、cylA保有率は両遺伝子を保有する群において最も高かったが,gelE-sprEの保有率は4群間で差が無かった。asalないしesp保有株は非保有株に比して、バイオフィルム形成能が高かった。asalないしespの保有率は、カテーテル留置かつ複数菌分離症例から分離されたE.faecalisにおいて高かった。以上の成績より、尿路におけるE.faecalisの定着・感染にasal, esp遺伝子産物の関与が示唆された。
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