VHL癌抑制タンパクはユビキチンリガーゼとして細胞内タンパク分解系で作用する。ユビキチン化の標的としては血管新生因子VEGFの制御に関与するHIFの他にシグナル伝達タンパクであるaPKCがあり、細胞極性や増殖制御に関わるシグナル伝達系制御への関与が推定された。そこで疾患に由来する各種の変異型および野生型VHLタンパクを腎癌細胞株で発現させた時に生じる遺伝子発現の変化をマイクロアレイを用いて解析することで影響を受ける遺伝子群の同定を行った。その結果、VHL遺伝子上の変異の位置により影響を受ける遺伝子が異なり、ユビキチン化基質結合領域の変異ではTGFBI等の発現が促進されるのに対して、elongin結合領域の変異ではSFNやLOXL1等の発現の抑制が起こることがあきらかになった。次に腎癌で不活化されている遺伝子の一つとしてRASSF1A遺伝子が報告されており、RASシグナル伝達系とVHL変異との相関が興味をもたれることから、日本人腎癌症例を対象とした初めての検討をメチル化解析により行った。その結果、日本人腎癌患者のRASSF1A異常メチル化率は約40%であるが、VHL変異との相関は認められず、両遺伝子の異常は異なるシグナル伝達系に影響していることが示された。次に、VHL遺伝子変異癌細胞株においてメチル化により発現抑制されている遺伝子のスクリーニングをMCA法により行った。その結果、腫瘍特異的なメチル化を高頻度で示すクローンが得られ、また従来は腎癌では見い出されていなかった、CpG island methylator phenotype (CIMP)が腎癌でも存在することがあきらかになった。 本研究によりVHL癌抑制遺伝子の異常の影響を受けるシグナル伝達遺伝子群、およびVHL変異と同時に異常を示すことから癌化の過程において協調的に作用している可能性を持つ遺伝子が複数解明された。
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