VHL癌抑制タンパクはユビキチンリガーゼとして働き、転写調節に関与するHIFやシグナル伝達分子であるPKCの分解制御に関わっている。しかし、細胞癌化の過程において、これらの制御機構の異常によって誘導される現象としてはHIF蓄積に起因する血管新生因子VEGFの発現亢進が報告されているのみで、VHLタンパクがどのようなシグナル伝達系に関与しているかは不明である。そこで、新規治療法の標的となる分子メカニズムの特定を目的として、腎癌発症過程においてVHL変異との相関が予想される発現変動遺伝子の同定を行なった。 まず、変異型VHLを発現する腎癌細胞株を材料にマイクロアレイ解析による発現変動遺伝子の同定を行なった。その結果、type 1 VHL病で認められる変異型ではTGFBIの発現が促進されるのに対して、type 2B VHL病で認められる変異型ではSFNやLOXL1の発現が抑制されることがあきらかになった。腎癌細胞株における、これらの遺伝子の発現の変化はreal-time PCR法や免疫染色法によっても確認されたことから、これらの遺伝子はVHLタンパクの変異に対応した特徴的な発現変動を示す遺伝子であることがわかった。 次に、腎癌特異的なメチル化を示すDNA領域をMCA法により単離同定した後、腎癌症例について、そのメチル化解析をおこなうことで腫瘍組織特異的なメチル化を高頻度で示す遺伝子および遺伝子候補領域を複数特定した。このうちMIRC9遺伝子はメチル化による発現制御を受けていることがあきらかになるとともに、非発現の腎癌細胞株への遺伝子導入により増殖の抑制、アポトーシスの誘導が認められ、癌抑制遺伝子として機能することが判明した。 本研究により腎癌特異的な発現もしくはメチル化状態の変動を示す遺伝子が複数同定されたことから、これらをターゲットとする新たな分子標的治療法開発の可能性が開けてきた。
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