研究概要 |
表面蛍光測定法(Fura-2 25Mm負荷)による細胞内カルシウムイオン濃度と発生張力の同時測定、α-toxin処理による脱膜化標本、ならびにWestern blot法を用いて、ヒト膀胱平滑筋(排尿筋)における、カルシウム感受性増加機序の関与の有無、ならびに同機序におけるRho kinase(ROCK)およびProtein kinase C(PKC)の関与について検討を行っている。 現在までに得られた知見としては、(1)膀胱排尿筋に対する主要なアゴニストであるカルバコールの刺激と、60mM高カリウム細胞外溶液による脱分極刺激を比較すると、細胞内カルシウム濃度の上昇は脱分極刺激の方が有意に大きかったが、逆に、その発生張力はカルバコール刺激によるものが有意に高かった。(2)脱膜化標本において、細胞内カルシウム濃度を一定条件下に保った状態でカルバコールを投与すると、さらなる収縮力の増強を認めた。また、細胞内カルシウム張力曲線はカルバコールの投与により有意に左方移動した。(3),カルバコールの収縮に続けてY-27632(ROCK inhibitor)、GF109203X(PCK inhibitor)を投与すると、細胞内カルシウム濃度の低下を認めずに、発生張力が低下した。(4)Western blotにて、RhoA、Rho kina-se(POCK I、ROCK II)、CPI-17(17kDa PKC-potentiated inhibitory protein of phospatase I)の発現を確認した。 以上の結果から、ヒト排尿筋において(1)カルバコールによる収縮には、細胞内カルシウム濃度の上昇に加え、平滑筋収縮装置のカルシウム感受性の増加機序も関与していること、(2)本機序には、ROCKとPCKが関与していることが推定された。 ヒト排尿筋においても、今回示されたカルシウム感受性増加機序を抑制することで、その筋緊張を低下させることが可能と考えられる。従って今後は、過活動膀胱といった臨床病態の治療目標として本機序が注目されると考えられる。
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