研究概要 |
今年度は主として培養細胞を用いた検討を行い、以下のような結果を得た。 (1)前立腺癌細胞株における66Shc蛋白の発現レベル 数種類の前立腺癌細胞株での発現をWestern Blottingにより解析したところ、p52/46Shcの発現レベルの差に比較してp66Shcの発現は細胞種によって大きく異なり、DU-145,PC-3,LNCaP,MDA-PCa2bの順に高い発現を示した。これらは細胞増殖倍化時間とよく相関していた。 (2)p66Shc発現に対するステロイドホルモンの影響 アンドロゲン依存性前立腺癌細胞(LNCaP,MDA-PCa2b)でのp66Shc発現に対するDHTの影響を検討したところ、DHT添加により、用量依存性の発現上昇が観察された。LNCaP細胞では最大約3倍、MDA-PCa2b細胞では約1.8倍の発現増加を示した。DHTによるこの効果は抗アンドロゲン剤であるBicaltamideによりほぼ完全に阻害された。他の種類のアンドロゲン依存性細胞である精巣癌由来細胞株のTera-1,2細胞でも同様のDHT添加による発現増加が認められた。さらに、エストロゲン依存性細胞であるMCF-7細胞にエストロゲンを加えてもやはり3倍程度までのP66Shc蛋白レベルの上昇が観察された。これらのp66Shc発現上昇に際しては各細胞の増殖が促進されるとともに、前立腺癌細胞ではPSAの発現増加も観察された。 (3)前立腺癌組織における66Shcの発現 免疫組織染色により前立腺癌組織での発現を検討した。結果、正常部に比べ、癌部での有意な発現増加が認められた。 今回の検討結果より、p66Shcはステロイドホルモン刺激に応答して発現が増加することがわかった。この発現増加が細胞増殖や癌化と関連している可能性が示唆されたが、今後はこの点につき解析を進めていく予定である。
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