我々は腎癌の発癌メカニズムを俯瞰的にとらえるために一度に数千の蛋白質を同定できる蛋白2次元電気泳動を用いた解析を行った。その結果、いくつかの細胞内蛋白が腎癌細胞において高発現していること、さらにいくつかの細胞内情報伝達系に関わる細胞内蛋白の活性が腎癌細胞において有意に亢進している可能性が示唆された。 我々は、それらの中で肝細胞成長因子であるHGF/SFの受容体であるチロシンキナーゼのMET蛋白がヒト腎癌の80%以上を占める淡明細胞型腎癌の細胞株において特異的にリン酸化を起こしていることに注目した。さらに解析を進めると、腎癌の原因遺伝子とされているVHL遺伝子がこのMET蛋白の活性を制御していることも明らかにした。すなわち、VHL遺伝子が不活化している腎癌細胞ではMET蛋白は常に活性化されているが、癌細胞に正常VHL遺伝子を導入させると、MET蛋白の活性化が抑制されることを明らかにした。 実際に手術等で得た腎癌組織を用いた解析の結果でも、腎癌組織中のMET蛋白は正常組織中のそれと比較して、明らかに活性が亢進していた。 さらに、MET蛋白の活性を阻害することが知られているK252aという薬剤を培養中の腎癌細胞に投与すると、MET蛋白の活性が抑制されると同時に、癌細胞の増殖も抑制された。また、ヌードマウスを用いた造腫瘍性の解析でも、このK252aは腎癌の造腫瘍性を有意差をもって抑制した。 以上の結果から、MET蛋白は腎癌の発癌メカニズムにおいて重要な働きをしており、MET蛋白を標的とした新たな腎癌治療法の開発の可能性が示唆された。
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