研究概要 |
目的:アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療を行う場合に、標的細胞におけるCoxsackie and adenovirus receptor(CAR)の発現検査によって、細胞毒性と免疫反応が予測でき、より安全に遺伝子治療ができる可能性があると考えられる。我々は、腎癌細胞株と臨床検体での腎癌のCAR発現を検討した。最近、histone deacetylase inhibitors(HDI)より標的細胞におけるCARの発現量が増加し、感染効率に影響していることがわかった。HDIであるFR901228と腎癌細胞のCAR発現量の関係を検討した。 方法:4種類の腎癌細胞株(Caki-1,ACHN,A498,VMRC-REW)を使用した。臨床検体では30例の腎癌組織と正常組織を採取した。免疫染色法とSemiquantitative reverse transcription polymerase chain reaction(RT-PCR)に.よるCAR ratioを測定し、腎癌の病期分類、異型度との比較検討を行った。FR901228による腎癌細胞株のCAR発現量をフローサイトメーターとSemiquantitative RT-PCRを用いて検討した。 結果:腎癌組織のCARは、ほとんど発現していなかった。0.01〜1.0ng/mlのFR901228で処理した腎癌細胞のCAR発現効果はFR901228の濃度に比例してCAR発現量が増加していた。1.0ng/mlのFR901228で処理した腎癌細胞のadCMV-β-galの感染効率は5〜8倍増強していた。これらの結果、至適濃度でのFR901228を用いた場合、アデノウイルスベクター単独より、約1/5以下の力価で同じ治療効果が期待された。 結論:HDIであるFR901228は、腎癌細胞のCAR発現を増加させる作用があり、今後の腎癌の遺伝子治療法に有用であると考えられる。
|