研究概要 |
【目的】NF-κBとCCAAT/enhancer binding protein (C/EBP)はともにサイトカインの産生を制御する転写因子である。腎細胞癌が炎症所見等の腫瘍随伴症状を伴うことを考慮すると、これらの,転写因子が腎細胞癌の発癌または進展に関与している可能性がある。【方法】腎細胞癌45症例の癌組織および正常腎組織よりタンパクを抽出し、ゲルシフト法を用いてNF-κBの活性化を検討した。p65に対する抗体を用いて免疫組織染色を行った、NF-κBの抑制因子であるIκBαの突然変異の有無をダイレクトシークエンス法により検索した。C/EBPの活性化は44例の手術検体を使用し、ゲルシフト法で検討した。isoformの判別にスーパーシフト法を用いた。C/EBPの組織内での活性化を免疫組織染色で確認した。【結果】NF-κBの活性化は、45症例中15例において正常腎に比して2倍以上の活性化を認めた。局所進展例(pT3)では14例中9例に活性化の増強を認めたのに対し、pT2以下の症例では31例中6例であり、その差は有意であった。活性化が増強されていた例では、組織内の腎癌細胞の核が活性化型NF-κB p65抗体で陽性に染色された。IκBαの突然変異は認められなかった。C/EBPについては、活性化はすべてβ-isoformによるものであった。44例の腎癌組織を使用した解析では9例で活性の増強を認めた。局所浸潤を認める症例(pT3)は限局性の腫瘍(pT1-pT2)と比べて有意に活性化を認める症例が多かった(62.5%v.s.16.7%)。活性化を認めた症例ではC/EBPβ抗体で腎癌細胞の核内が陽性に染色された。【結論】腎細胞癌の進展にはNF-κBとC/EBP-βの活性化が関与し、これらの転写因子の活性化の抑制は腎細胞癌に対する新しい治療方法としての可能性を示唆するものと考えられた。
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